「実験データが足りない」「質疑に答えられない」
研究発表というのは、誰しも不安になります。
論文の提出という山を越えても、その先には「審査会」という最後の試練が待っているからです。
しかし、安心してください。
結論から言います。
論文審査会の評価は、「研究内容」ではなく「スライドの出来栄え」で9割決まります。
何十人もの発表を聞き続ける審査員(教授)は、疲弊しています。
パッと見て内容が入ってくる「見やすいスライド」を作る。
それだけで「論理的思考力がある」と評価され、理不尽な質問攻撃を回避できるのです。
この記事では、国立大学の公式資料や科学的根拠に基づき、「研究内容の薄さを、圧倒的な見やすさでカバーする」ためのスライド作成術を解説します。
デザインセンスは一切不要です。
ただ「型」通りに作るだけで、あなたの評価は劇的に変わります。
■ この記事でわかること
- 筑波大学も推奨する、減点されない「王道のスライド構成」
- 脱・メイリオ!使うだけでプロっぽく見える「UDフォント」の設定技
- 「データ不足」や「失敗」を、論理的な成果に見せる裏テクニック
- 質疑応答の恐怖を消し去る「予備スライド」の準備リスト
涙をぬぐって、PCを開いてください。
このマニュアル通りにスライドという「鎧(よろい)」をまとえば、あなたは無傷で審査会を乗り切れます。
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なぜ、論文審査は「スライドのデザイン」で9割決まるのか?

「研究の本質は中身だ。見た目なんて関係ない」
そう思っていませんか。
その正論は、残念ながら審査の現場では通用しません。
なぜなら、審査員である教授たちは、あなたの発表を聞く頃には限界まで疲弊しているからです。
一日に何十人もの学生の、専門外の分野も含む発表を聞き続ける彼らの脳は、情報の処理能力が落ちています。
そんな状態で、文字が小さく、構成が複雑で、どこを見ればいいかわからないスライドを見せられたらどうなるでしょうか。
「理解できない」=「論理的ではない」と判断され、イライラした教授から重箱の隅をつつくような質問が飛んできます。
逆に、疲れた脳でもスッと入ってくる「見やすいスライド」であれば、それだけで「配慮ができる」「整理能力が高い」というポジティブなバイアスがかかります。
特に、学部生や修士課程の学生に求められているのは、ノーベル賞級の発見ではありません。
「一定の作法(アカデミックなお約束)に従って、データを論理的に提示できる能力」です。
内容に自信がない時ほど、スライドという「伝え方の作法」を完璧に整えてください。
美しいスライドは、実験データの不足や論理の小さな穴を、視覚的な説得力でカモフラージュしてくれます。
これはズルではありません。研究者として必須のプレゼンテーション能力なのです。
【そのまま使える】理系研究発表の「黄金構成」テンプレート

「スライドの構成、どうすればいい?」と悩む時間は無駄です。
科学の世界には、すでに確立された「型」があるからです。
独自性を出そうとして変な構成にすると、「論理が飛躍している」「科学的ではない」とみなされ、格好の攻撃対象になります。
ここでは、国立大学(筑波大学)の資料でも明言されている「これ以外はありえない」という王道の構成を紹介します。
この通りにスライドを並べるだけで、あなたの発表は「論文」としての体裁を完璧に保てます。
筑波大学も推奨する「王道の流れ」とは?
基本は以下の順序です。
この流れを崩してはいけません。
- タイトル(具体的かつ簡潔に)
- 背景(社会的問題やニーズ)
- 先行研究(すでに分かっていること)
- 本研究の目的(未解明の点と、それをどう明らかにするか)
- 実験方法・材料(誰がやっても再現できるように)
- 結果(事実のみを淡々と)
- 考察(結果から言える自分の考え)
- 結論・まとめ(目的に対する答え)
- 今後の課題(今回できなかったこと)
筑波大学の資料には『上記の構成でないものは、研究論文ではない』とまで記されています。
迷ったら、この順番通りに白いスライドをまず作成し、タイトルを打ち込んでください。
それだけで骨組みは完成です。
卒論・修論・中間発表…持ち時間別「スライド枚数」の目安
「何枚くらい作ればいいの?」という疑問への答えはシンプルです。
「1分 = 1スライド」が鉄則です。
人が1枚のスライドを理解し、話を聞くのに適切なペースがこの速度だからです。
早口で枚数を詰め込むのは「焦っている」印象を与え、逆効果です。
- 学部卒論(発表7分):7〜10枚
- 修士論文(発表12分):12〜15枚
- 中間発表(発表5分):5〜7枚
枚数が足りない分には、話すスピードを落として堂々と振る舞えば「落ち着いている」と評価されます。
逆に枚数オーバーは「時間管理ができない」という致命的な減点につながるため、勇気を持って削りましょう。
【生存戦略】「結果」が弱いなら「背景」を厚くせよ
ここからが、実験データに自信がない学生のための「生存戦略」です。
もし、思うような実験結果が出なかった場合、「結果」のパートを無理に引き伸ばしてはいけません。
中身のないグラフを長く見せられると、審査員は「中身がないな」と見抜き、粗探しを始めます。
その代わり、前半の「背景」と「先行研究」を分厚くしてください。
- この研究がいかに社会的意義があるか
- 過去の研究では何が分かっておらず、どこが難しかったのか
ここを丁寧に語ることで、「難しい課題に取り組んだ」という印象を植え付けられます。
その上で、「結果(失敗データ)」を提示し、考察で「なぜうまくいかなかったのか(=この課題の難しさ)」を論理的に語れば、それは立派な科学的成果として成立します。
結果がゴミでも、ストーリー(背景と考察)が一流なら、論文は通ります。
【注意】逃げ道は「修羅の道」でもある
ただし、この戦略には一つだけ致命的なリスクがあります。
背景を厚く語れば語るほど、審査員の関心は「先行研究」へと向くということです。
「君が引用したこの論文と、今回の結果の矛盾はどう考える?」「類似の研究で〇〇という論文があるけど、読んでないの?」
背景を盛るということは、こうした鋭い質問を誘発するということです。
もしここで「えっと、読んでません……」と答えに詰まれば、「自分の研究の位置付けも分からずに実験したのか」と、かえって評価を下げてしまいます。
筆者もかつて、これで地獄を見ました。
この戦略をとるなら、引用した論文や関連する文献は、アブストラクトだけでなく本文まで読み込んでください。
「背景で逃げる」には、それ相応の「防具(知識)」が必要です。
「メイリオ」で十分?これからの研究発表で「UDフォント」が推奨される理由

「フォントなんて、読めれば何でもいいじゃないか」
多くの理系学生はそう考え、デフォルトの「游ゴシック」や、あるいは少しこだわって「メイリオ」を使っています。
もちろん、メイリオは非常に優秀なフォントであり、これを使ったからといって減点されることはありません。
しかし、もしあなたが「少しでも印象を良くしたい」「聴衆への配慮を見せたい」と思うなら、「UD(ユニバーサルデザイン)フォント」という選択肢を知っておくべきです。
アカデミックの鉄則は「ゴシック体」
まず大前提として、スライドには「ゴシック体」を使います。
「明朝体」は、線が細く、遠くの席から見ると文字がかすれて判読しにくいため、プロジェクター投影には不向きです。
筑波大学の資料でも『文字はゴシック体(明朝体は見にくい)』と明確に否定されています。
おしゃれな雰囲気を出そうとして明朝体を使うのは、理系発表においては「見やすさを無視した自己満足」と捉えられかねません。
Windows標準搭載「BIZ UDゴシック」が最強である理由
では、どのゴシック体を使うべきか。
これまでの定番は「メイリオ」や「MSゴシック」でしたが、現在、多くのデザイン解説書や公的機関で推奨されているのが「BIZ UDゴシック」です。
これは「ユニバーサルデザイン(UD)」の名の通り、「誰にとっても(老眼の人や、文字の読み書きに困難がある人にとっても)見やすく、読み間違えにくい」ように設計されたフォントです。
- 濁点・半濁点が大きい:「バ」と「パ」の違いが遠くからでも一瞬で分かる。
- 懐(ふところ)が広い:文字の隙間が広く、潰れにくい。
実はこのフォント、Windows10以降のPCには標準で搭載されています。
特別なソフトをインストールする必要はありません。
教授の中には、加齢により視力が落ちている方もいます。
「UDフォントを使う」という選択は、単なるデザインの好みではなく、そうした審査員への「優しさ(配慮)」として機能します。
その配慮は、必ず好印象としてあなたに返ってきます。
3クリックで完了!スライドを一括でUDフォントに変換する技
「スライドを全部作った後に、フォントを変えるのは面倒くさい……」そう思うかもしれませんが、PowerPointには一瞬で全ての文字を変更する機能があります。
- 「ホーム」タブの右側にある「置換」の横の▼をクリック
- 「フォントの置換」を選択
- 置換前のフォント(例:MS Pゴシック)を選び、置換後のフォントに「BIZ UDPゴシック」(※P付きがプロポーショナルでおすすめ)を選んで「置換」
これで、全スライドが最新の「見やすいスライド」に生まれ変わります。
【重要】変更前に必ず「研究室のルール」を確認せよ
便利なUDフォントですが、導入前に一つだけ確認すべきことがあります。
それは、「指導教員や研究室の独自の指定」がないか、ということです。
研究室によっては、「スライドは全てMSゴシックで統一する」「伝統的にメイリオを使う」という鉄の掟が存在する場合があります。
いくらUDフォントが見やすくても、教授が「指定と違う」と不快感を示せば、それはあなたの減点になります。
「良かれと思ってやった」が仇にならないよう、フォントを変更する前に、必ず先輩や教員に「見やすさのためにBIZ UDゴシックを使っても良いか」を確認してください。
もし「ダメだ」「うちはこれを使え」と言われたら、迷わず指定に従いましょう。
私たちの目的は「見やすい資料を作ること」ではなく、「無事に審査を通過すること」です。
この場において、「教授の指示」は「法律」よりも重いのです。
ダサい理系スライドを卒業する!「見やすさ」の3原則

フォントが決まったら、次はいよいよ中身のレイアウトです。
「ダサい」「見にくい」と言われる理系スライドには、共通点があります。
それは「詰め込みすぎ」です。
おしゃれなデザインセンスは必要ありません。
以下の3つの原則を守り、情報を「削る」勇気を持つだけで、あなたのスライドは劇的に洗練されます。
【原則1】1スライド・1メッセージ(文章は「箇条書き」が命)
最も重要なルールです。
「1枚のスライドで言いたいことは、1つに絞る」
あれもこれもと情報を詰め込むと、聴衆はどこを見ればいいか分からなくなります。
目安として、1枚のスライドに書いていいのは「タイトル + 箇条書き3行 + 図1つ」までです。
- NG:「本研究では、〇〇という課題に対し、△△という手法を用いてアプローチし、その結果…(長い文章)」
- OK:
- 課題:〇〇
- 手法:△△
- 結果:□□
教授はスライドの文字を「読んで」はいません。「見て」います。
読む負担をかけさせないよう、長い文章はすべて「体言止めの箇条書き」に変換してください。
【原則2】配色は「3色」まで(ベース・メイン・アクセント)
スライドがごちゃごちゃする原因の多くは、色使いすぎ問題です。
使う色は、以下の3色(+文字色の黒)だけに絞ってください。
- ベースカラー(背景):白(基本はこれ一択)
- メインカラー(見出し・枠線):濃い青、または濃い緑(知的な印象を与える寒色系がおすすめ)
- アクセントカラー(強調・重要な結果):赤、またはオレンジ
これ以外の色は使いません。
特にやりがちなのが、グラフの棒ごとに色を変えてカラフルにしてしまうことです。
「重要なデータだけ赤、それ以外はグレーや青」にするだけで、「ここを見てほしい!」という意図が明確に伝わります。
【原則3】余白は「知性」である。画像とグラフを大きく配置する勇気
「空白が怖い」という心理から、スライドの隙間を文字で埋め尽くしていませんか? それは逆効果です。
余白は、情報の区切りを明確にし、視線を誘導するための重要な要素です。
特に理系の命である「実験データ(グラフ・図)」は、スライドの半分以上を占めるサイズで堂々と配置してください。
- 小さいグラフ + 長い説明文 = 自信がなさそうに見える
- 巨大なグラフ + 短い結論 = 自信満々に見える
「図を見れば分かる」レベルまでグラフを大きくし、文字を削る。
この「余白を恐れない勇気」が、スライドに知性をもたらします。
発表本番を乗り切る「防御力」の高め方

スライドが完成しても、まだ油断してはいけません。
多くの学生が、発表後の「質疑応答」で撃沈します。
また、本番の機材トラブルでパニックになるケースも後を絶ちません。
これらは全て、事前の「防御策」で回避可能です。
あなたの心臓を守るための、3つの鉄則を伝授します。
質疑応答が怖い?「予備スライド(Appendix)」がお守りになる
「痛いところを突かれたらどうしよう」この恐怖を打ち消す唯一の方法は、「聞かれそうなことに対する答えを、スライドとして持っておくこと」です。
本編のスライド(結論などの後ろ)に、「Appendix(補足資料)」というページを作り、以下のデータを詰め込んでおいてください。
- 本編でカットした詳細な実験データ
- 「なぜこの手法を選んだのか」という根拠を示す文献リスト
- 予想される反論への回答図
質問が来た瞬間、「あ、それについては資料があります」と言ってAppendixを表示できたとき、あなたの評価は「準備不足の学生」から「周到に準備された優秀な研究者」へと逆転します。
たとえ使わなかったとしても、「これがある」という事実が、最強のお守り(精神安定剤)になります。
アニメーションは全廃止。トラブルの元を断つ
文字がフェードインしたり、図が回転したりするアニメーション。
これらは百害あって一利なしです。今すぐ全て削除してください。
理由は2つあります。
- 機材トラブルのリスク:発表会場のPCスペックやPowerPointのバージョンが異なると、動作が重くなったり、動かなくなったりします。
- テンポの悪化:「次へ」を押す回数が増えるため、緊張していると操作をミスります。
静止画だけのスライドが、最も安全で、最もトラブルが起きません。
「動き」でごまかそうとせず、「配置」で見せてください。
最終チェックは「印刷」で。モニターでは見えないミスを潰す
スライドが完成したら、必ず一度「紙に印刷」してチェックしてください。
不思議なことに、PCの画面上では完璧に見えても、紙に印刷して赤ペンを持って眺めると、驚くほど多くのミスが見つかります。
- 微妙な文字のズレ
- 誤字脱字
- グラフの単位の抜け
また、紙に印刷して並べることで、全体のストーリーの流れ(論理の飛躍がないか)を俯瞰して確認できます。
インク代をケチらず、この「物理チェック」を行うかどうかが、当日の完成度を分けます。
まとめ

最後に、要点を振り返ります。
- 審査は見た目が9割:教授は疲れている。「見やすいスライド」を作るだけで、論理的思考力があると評価される。
- 構成は「型」通りに:筑波大学推奨の「背景→目的→方法→結果→考察」の順序を死守する。オリジナリティは不要。
- 困ったら背景を盛る:実験データが弱い場合は、背景と先行研究を厚くし、「課題の難しさ」をアピールして乗り切る。(ただし、文献は読み込んでおくこと)
- フォントはUDへ:「BIZ UDゴシック」を一括置換で設定し、視認性と教授への配慮を示す。
- 防御を固める:アニメーションは捨て、予備スライド(Appendix)という武器を懐に忍ばせる。
スライドは、戦場に向かうあなたの身を守る「鎧(よろい)」です。
中身(実験結果)がどれだけ傷だらけでも、鎧さえ立派なら、あなたは堂々とした「研究者」に見えます。
完璧主義を捨て、まずはこのマニュアル通りに「形」を整えてください。
その作業が終わる頃には、あれほど怖かった発表が、少しだけ楽しみに変わっているはずです。
胸を張って、PCを閉じ、本番へ向かいましょう。
健闘を祈ります。


